倫敦月/アラビア月

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悲しい「アニバーサリー」 (グレンフェル・タワー火災から3年)

アニバーサリー'Anniversary'という語から受ける印象は何でしょう。

日本では「10thアニバーサリー」といった何周年記念の「お祝い」や「お祭り」のイメージが強いと思いますが…

これは、ロンドンのある教会に張り出されていたお知らせです。

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"Sunday 14th June marks the third anniversary of the Grenfell Tower fire."

「日曜日、6月14日はグレンフェル・タワー(Grenfell Tower)の火災から3回目の記念日です。」

午後6時から72回教会の鐘を鳴らし、黙祷することを呼びかけています。

 

'anniversary' = "a date that is an exact number of years after the date of an important or special event" 「大事な、あるいは特別な出来事からある特定の年数を経たその日」(Oxford Learner's Dictionaryより)

つまり、記念日なのですが、元の英語では、よい出来事にも、事故、事件、死去等の悪い出来事にも使われるのです。

用例の一つ目には"on the anniversary of his wife's death"「彼の妻が亡くなった日(命日)に」、二つ目には"to celebrate your wedding anniversary"「結婚記念日を祝うために」と悲しみと喜びの両方が載っています。

 

イギリスのニュースで見聞きする'Anniversary'も、あらゆる出来事に用いられており、例えば下記の通りです。

・ヨーロッパ戦勝記念日(VE Day)のお祝い: イギリスは75回目の記念日を迎える

 VE Day celebrations: The UK marks 75th anniversary - BBC News

・ベルリンの壁崩壊記念日: メルケル首相は民主主義は「自明」ではないと警告

 Berlin Wall anniversary: Merkel warns democracy is not 'self-evident' - BBC News

・マンチェスターアリーナ爆破事件: 2周年の礼拝

 Manchester Arena bomb: Service marks second anniversary - BBC News

 

そして、グレンフェル・タワー火災の3周年についても。

www.bbc.co.uk

 

さて、'anniversary'の語源は、ラテン語の'anniversarius'で、'annus'「年」+'versus'「巡る」です。

'annus'の方は、'annual'「年一回の、例年の、年間の」の語源にもなっているのはすぐに分かりますね。

「年」はフランス語だと'an'、イタリア語だと'anno'、スペイン語だと'año'とラテン系の言語では似通っています。

 

同じく「年」の'year'の語源はといえば、ゲルマン語系のオランダ語の'jaar'、ドイツ語の'Jahr'と同じくインド・ヨーロッパ語族のルーツを持ち、ギリシャ語の'hōra'「季節」と共通の語源だとありますが… 元の語が消えてしまっているので、何だか消化不良な説明です。

英語はゲルマン語派なのですが、ラテン語~フランス語起源の言葉も多く入っていますので、「年」を表す語にも両派があるのですね。

 

なお、'year'の形容詞は'yearly'で、'annual'と同じ意味なのですが、あまり使っているのを見たことがありません。

サイトをイギリスに絞ってグーグル検索でヒットした件数は、'annual' 333百万 対 'yearly' 20百万と、'annual'の圧勝です。'yearly'は形容詞と副詞の両方で使えるのに…

日本語だと「アニュアル」459千対「イヤーリー」7千で、英語以上に「アニュアル」の圧勝ですが、前者の多くは「アニュアル・レポート」です。

会社の年次報告書なので多くても当然ですね。英語のサイトも同様ですが。

なお、後者で目立つ「イヤーリー任務」って?? どうやら、オンラインゲーム「艦これ(艦隊これくしょん)」の用語ですね…

 

グレンフェル・タワーの火災は2017年6月14日にロンドンで発生した、第二次世界大戦後のイギリスで最大の犠牲者を出した火災です。

ja.wikipedia.org

冒頭の教会の鐘が72回鳴らされるのは、72名もの犠牲者があったとされているためです。(実際にはもっと多かったとも)

2年前には火災を取り上げたドキュメンタリー番組、延焼を拡大した疑いのある断熱材の着火テスト等をテレビでよく見かけましたが、今年はコロナウイルスのニュースのため、取り扱いが大きく減少しました。

それでも、未だ3年と記憶に新しい事件です。

犠牲者には移民などのマイノリティーが多かったとされており、6月6日の国会前で行われた人種差別への抗議行動では、この火災に関連したメッセージも見かけました。

社会構造的な差別が現れた一つの形だという見方が続いているのです。

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