倫敦月/アラビア月

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今も生きるスピットファイア(Spitfire)

前回の記事にしたキャプテン・サー・トム(Captain Sir Tom)が100歳の誕生日を迎えた4月30日、ニュースではご本人の映像はもちろん、ジョンソン首相からのメッセージ、体育館の埋め尽くした14万枚のバースデーカード等が紹介されました。(※1)

そして、英空軍が派遣した2機の第二次世界大戦当時の戦闘機が自宅上空を飛行する姿がライブで映し出されました。スピットファイア(Spitfire)とハリケーン(Hurricane)。この両機はドイツとの戦争において、英国の空を守り抜いた盾としてよく知られており、右手を上げて応えるキャプテン・トムも満足そうです。

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(前方のこげ茶色がハリケーン、後方の黄土色がスピットファイア)

 

先週の7月10日はドイツ・イギリスの空の戦い、'Battle of Britain'「バトル・オブ・ブリテンが始まって80周年に当たる日でした。

これに合わせてBBCが制作・放映した特別番組が'Battle of Britain: The shoolgirl who helped design Spitfire'「バトル・オブ・ブリテン:スピットファイアの設計を助けた女生徒」。スピットファイアの設計チームの父親を数学の才能で手助けした13歳の少女の物語です。重量が増す不利があっても、機関銃を4丁から8丁にする有効性を計算で示し、ドイツ機との戦闘を有利にしたというものでした。

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日本におけるゼロ戦のように、当時のイギリスを代表する戦闘機がスピットファイアといえるでしょう。

それもイギリス国民に歴史として記憶されているだけではなく、キャプテン・トムの誕生日のように、今でもいろいろな場面で目にすることができます。

例えば、今年7月10日のヴェラ・リン(Dame Vera Lynn)さんの葬儀。(※2)

www.bbc.co.uk

 7月6日のNHS(国民医療システム)の創立72周年記念日。

www.bbc.co.uk

 5月8日のVEデー(ヨーロッパ戦勝記念日)など。(※3)

www.bracknellnews.co.uk

www.dailymail.co.uk

 

2年前の2018年7月10日には英空軍設立100周年記念式典がロンドンのバッキンガム宮殿で開催され、3機のスピットファイアがランカスター(爆撃機)、ハリケーンと編隊を組んで飛行しました。

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私はこの式典に向かう編隊飛行を会社の窓から見ることができました。歴史的な機体から、最新鋭のF-35(当時配備されていた3機全てがロンドン上空の式典に初披露)まで順番に飛んでゆくのを目にして、軍との距離が日本とは大きく異なっているのを感じたことを覚えています。

 

このようにスピットファイアを度々目にすることができるのも、貴重な機体をしっかりと整備、保存する熱意があってのことです。

今でも飛行可能なスピットファイアは約60機あり、その半数はイギリスにあります。

 

6機は英空軍が今でも保持しており、上記の式典等に用いられています。

また、訓練用の二人乗りスピットファイアに乗れる場所もあります。30分、2750ポンドとのこと。

www.aerialcollective.co.uk

 

この飛行可能なスピットファイアの実機は2017年の映画『ダンケルク』の制作にも用いられました。

私は上記のキャプテン・トムのニュースの音を聞いて、この映画と同じだと思い起こしました。ニュースでも、映画でもロールスロイス製エンジンの音について語られており、重要な要素になっています。アカデミー賞で録音賞、音響編集賞を受賞したこの映画の実力が発揮されている箇所の一つでしょう。

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現在、飛行可能なゼロ戦は5機。内、元のエンジンを積んでいるのは1機しかなく、このようなリアリティーのある映画の製作は考えられません。また、その全てがアメリカにあり、ここでも大きな違いを感じます。

 

また、飛行できないスピットファイアはイギリス国内に46機。これはその一つ、ロンドンの帝国戦争博物館(Imperial War Museum)の展示です。

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こちらはその展示の説明。'Agile, graceful and powerful'「敏捷で優雅で力強い」と表現されています。

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この右側の写真は『ダンケルク』でも描かれた、大陸から撤退する兵士を載せたボートです。

この博物館にはゼロ戦の残骸も展示されているのですが、スピットファイアの雄姿に並べるのは忍びなく、また別の記事で…

 

さて、この'Spitfire'とは「火を吐く者」、すなわち「短気な癇癪持ち」という意味で、開発者はその命名が気に入らなかったといわれています。病のため完成を見ずに亡くなったのですが、それが救国の切り札として長く国民に愛され、記憶されたことを知れば、その仕事には十分満足されるのではないでしょうか。

 

 

(補足) ※1 キャプテン・サー・トム、※2 ヴェラ・リンさん、※3 VEデーについては下記の記事があります。

pink-supermoon.hatenablog.com

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