倫敦月/アラビア月

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グレート・ブリティッシュ・ベイクオフのジャパニーズウィークはどんなだったか

少し時を遡りますが、イギリスで10月27日に放映された人気TV番組、グレート・ブリティッシュ・ベイクオフのテーマは、ジャパニーズウィークでした。

 

この料理コンテスト番組でよく課題として取り上げられるパンやパイ・ケーキ類と日本の取り合わせがピンとこなかったので、どんなことになるのか興味津々でしたが… 

pink-supermoon.hatenablog.com

 

※今回の記事は、日本でもブリティッシュ・ベイクオフのタイトルでシーズン8まで放送されている番組のシリーズの11回目、その第6回の内容にかかわることを取り上げます。誰がスターベイカーに選ばれ、だれが最下位だったかといった詳しいことは書きませんが、どんな課題でどんなベーキング料理だったかのネタバレになりますので、ご注意ください。

 

この番組は基本的に小麦粉を素材としたパン、ケーキ類が中心なので、カステラやどら焼き、あるいはアンパンのようなものを作るのかもと想像していましたが、その予想は大きく外れました。

そして、イギリスで日本の料理や文化がどう捉えられているかの一端がわかるものでもありました。

 

番組はオープニングで進行役のノエル・フィールディング (Noel Fielding)とマット・ルーカス (Matt Lucas)の二人の会話で始まるのですが、いきなりコスプレ(?)です。

 

マットがマンゴー(Mango)のかぶり物で"Konnichi wa!"「こんにちは」と挨拶して、ノエルに"I said a Manga character."「マンガのキャラって言ったんだけど」と突っ込まれます。

日本製のマンガやアニメーションがイギリスでもよく知られているのが分かります。

書店には英訳された日本のマンガのコーナーがありますし、2019年夏に大英博物館で開催されたマンガ展は盛況で入場券は売り切れ続出でした。

(ロンドンの書店 Waterstones のマンガコーナー)

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(大英博物館で開催されたマンガ展)

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この回のベーキングの課題は次の三つでした。

  1. Signature Challenge: Steamed Buns (中華まん)
  2. Technical Challenge:  Matcha Crepe Cake (抹茶クレープケーキ) 
  3. Showstopper Challenge: Kawaii Cake (「かわいい」ケーキ)

 

のっけから日本ならぬ中華まんです。ヨーロッパでは中国料理と日本料理の境界があいまいで、イギリスの日本食を中心とした東アジア系ファストフードチェーン Itsu のメニューでもBao(包子)が大きく載っています。

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課題の説明では日本では普通は豚肉やカレーが入っていると説明されました。肉まん(豚まん)やカレーまんですね。今回の課題ではどんな具でもよいとしていて、ベイカーたちはポーク、チキン、ラム、チーズ等を選んでいました。

そして、一人のベイカーが選んだのは Chikin Katsu Curry (チキンカツカレー)といっているのですが、チキンは揚げていません。

イギリスでは Katsu Curry (カツカレー)は日本風のとろみのついたカレーソースと解釈されることがあって、ロンドンのデリではカツが入っていないカツカレーを時々見かけます。

(Aubergine Katsu Curryはナスカレーであって、カツカレーではないんですが…)

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番組では Katsu Curry は "One of Japan's most popular Western-inspired foods."「日本の最も人気のある西洋の影響を受けた食べ物」と紹介されました。インド人もビックリです…

と書きながら、日本のカレーはインドのカレーがイギリスを経由して入ってきたものなので、その表現も「有り」だと思いました。カレーが西へ東へ、また西へと伝わっているのが面白いです。

 

二つ目の課題は抹茶クレープケーキ。抹茶を混ぜたクレープを薄切りのイチゴ、ホワイトチョコレートクリームを挟んで12層も積み重ねて、仕上げにも抹茶をまぶしたケーキです。

 

今度は日本発の素材を使ったわけです。抹茶の元は中国から来たというのは、今度も横に置いておきましょう。

Matcha (抹茶)として、こちらで一番知られているのが Matcha Latte (抹茶ラテ)ではないでしょうか。泡立てた甘みのついたミルクに抹茶を混ぜたもので、イギリスのカフェでもなかなかの人気です。

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三番目の大物の課題 Show Stopper は Kawaii Cake (「かわいい」ケーキ)。その説明では"Kawaii is a style rooted in Japanese culture that means all things cute and chaming."「'かわいい'は日本文化に基づいた様式で可愛いく魅力的という意味を持つ」と。しかも、味付けや飾りつけは日本料理から発想されるものが要求されます。

美味しさに加えて、飾りつけを含む見た目の美しさやオリジナリティーも重視するShow Stopperの課題にうってつけです。

 

ジャッジのポール・ハリウッド(Paul Hollywood)の要求は、アニメやマンガやイメージすることに加えて、

"We want to be quite vibrant, quite neat, sharp, professional, but it's got to look cute and taste good." 「とても色鮮やかで、巧みで、きりっとして、職人的な形でありながら、見た目にかわいくて、しかも美味しくあって欲しい」

もう一人のジャッジ、プルー・リース(Prue Leith)の期待は、

"It would be nice to see the bakers think about Japanese flavours like yuzu, matcha or sake." 「ユズ、抹茶、日本酒のような日本的な味わいを考えてくれるといい」

 

これに対して、ベイカーたちが選んだ「かわいい」キャラクターはといえば、柴犬、キノコ、パイナップル、アボカド、バドミントンの羽(シャトルコック)を元にした「ゆるキャラ」のようなものでした。ゲイシャ(芸者)をあしらったものもありましたが。

(こんなマンガ的なマスコットキャラクターはヨーロッパではあまり見かけず、日本的といえます)

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これらをクリームを挟んだスポンジケーキで形作って、風味として選ばれたのは、抹茶、ユズ、アジアの梨、きな粉、日本のウィスキー、ココナッツ、ジンジャー、ライム、レモン、アップルなど。日本的、アジア的、西洋的なものがいろいろ混ざるのは、まあ予想できるでしょう。

 

腕に覚えのあるベイカーたちですので、その出来栄えはなかなかのものでした。

これらのリンクの映像を見ればわかっていただけるかと。Shiba Inuケーキを作ったデイヴは自宅で実際に柴犬を飼っています。

(Twitter, @BritishBakeOff)

 

結局のところイギリスで制作され、放映され、視聴されている番組ですから、今回のジャパニーズウィークも、イギリスでお馴染みのケーキ類に日本的なものをアレンジしたものだったということです。

逆にいえば、寿司とかニンジャ・サムライを無理やり取り込まなくても、いろいろな日本素材、日本文化が知られているので、その中から使いやすい味付けを適用すればよかったのだと理解できました。

いつもの進行の番組に日本の香りを取り入れたエピソードとして楽しめました。

 

最後に、振り返り映像のリンクを置いておきます。

(Twitter, @BritishBakeOff)