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ホーンビー - 辞書を作った人 (オックスフォード英英辞典は日本発)

このブログで英語について書くときにお世話になっている辞書、Oxford Advanced Lerner's Dictionary (OALD)。日本での名称はオックスフォード現代英英辞典。

今、そのウェブサイトのトップページ(下記)に"The Man Who Made Dictionaries"「辞書を作った人」のタイトルで、この辞書を最初に作ったAlbert Sydney Hornby (アルバート・シドニー・ホーンビー、ニックネームはASH)が紹介されています。

www.oxfordlearnersdictionaries.com

 

そこには、より詳しいYoutubeの動画へのリンクもあります。

youtu.be

この動画で、ホーンビーが辞書を作るきっかけになったのが日本での英語教育だと知りました。以下に、動画からその経緯の部分を抜き出してみます。

 

1924年に新婚のホーンビーは日本に渡りました。大正ロマンの時代。日本は西欧文化をさらに取り入れ、アジアを中心として海外との接触も増えていった頃です。

大分高等商業学校(Oita Higher Commercial School、大分大学経済学部の前身)で英文学教師なったホーンビーは、学生たちがシェークスピアのような英文学を理解する力がありながら、英語を話すのには苦手なことに気づいたのです。

そこで、最新の英語雑誌の切り抜きを使って、生きた言葉の使い方を教えるようになりました。英文学から英語の教師に変わっていったのです。

さらに英語教育研究所の活動に参加した頃には、自分が見聞きした様々な言葉の用法を集めるようになりました。そして、何年もかけて集めたこの用例集をまとめて、1938年から英語学習者のための辞書の作成を始めました。

その辞書の表現には、ホーンビーが教室で教えていたときのような簡潔で簡単なものを用いました。この"keep it simple"の理念は、今日のOALDにまで受け継がれています。

 

この辞書を出版しようとしていた開拓社がインドのムンバイ(ボンベイ)に送ったささやかな広告が、この生まれつつある新しい辞書が世界に広がっていくきっかけになりました。オックスフォード大学出版局の編集者がその広告に目を付けて、サンプルを送るように請求したのです。

しかし、辞書が完成した1940年のヨーロッパは戦争の真っただ中。島国のイギリスを孤立させるために、ドイツ軍の爆撃機や潜水艦が輸送船を襲っていました。ホーンビーはサンプルの1部は直接郵送し、もう1部は大英図書館(British Library)の東京の役員から送ってもらうという手段を取りましたが、両方ともロンドンのオックスフォード大学出版局には届きませんでした。

 

さらに悪いことに、1941年には日本がアメリカ、イギリスに対して開戦。敵国人であるホーンビーはドイツ系修道院に抑留され、1942年に赤十字の捕虜交換船で国外退去となりました。ホーンビーの東京の自宅にあった資料は、その後の空襲で灰になりました。

しかし、ホーンビーは衣類に限ると指示された手荷物の中に、貴重な辞書のサンプルの1部を隠し持っていたのです。

 

戦争による物資不足のため、この脱出行がようやく辞書の形になったのは1948年。以来、Oxford Advanced Learner's Dictionaryはオックスフォード大学出版局のベストセラーの一つとなり、世界中の何百万人という英語学習者を支えているというわけです。

 

なお、日本に残ったホーンビーの最初の辞書は開拓社から "The Idiomatic and Syntactic English Dictionary"、現在の『新英英大辞典』として1942年に発行されています。

 

こうしてOALDの歴史を見てみると、この英英辞典が日本の学習者である私に使いやすい理由が理解できる気がします。

今では世界で最も利用されているオンライン辞書の一つになっているのも。英語はネイティブスピーカーだけのものではありませんからね。

 

日本でもオックスフォード現代英英辞典の人気・評価は共に高いですね。

この辞書の売り上げの一部はホーンビー教育基金として世界中の英語教師をサポートしていることが、上の動画の最後に紹介されています。

私が使っているのはこちらで買ったペーパーバック版ですが、大きいので持ち運び用にはオックスフォードのミニ辞書を使っています。

(右がOALD、左がミニ)

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それにしても、ホーンビーの辞書作りに傾けた情熱は、国語辞典編纂者の見坊豪紀を思い出させます。『三省堂国語辞典』の編纂者で、145万もの「生きた」言葉を用例カードとして集めた国語学者です。

三浦しおんの『舟を編む』に出てくる松本先生も思い出させます。

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