倫敦月

英国ロンドンでの生活と見聞きしたこと、英語についての関心事、そして他のヨーロッパ各地についても少々(のつもりです)

杖を一振り… ってWand, Staff, Cane, Stick?

イギリスのスーパーマーケットMarks & Spencerのキッチン用品のページを見ていたら、'Tea infuser wand'という商品がありました。

www.marksandspencer.com

何に感心したかといえば、この製品に'Wand'と名付けたセンスです。

日本でも同様の製品が売られていますが、こちらの名前は'Tea Ball'ですか…

(OXOはアメリカの家庭用品メーカーですが)

OXO 茶こしストレーナー ツイストティーボール
 

 

'Wand' は、Oxford English Mini Dictionary曰く、"a slender rod esp. one used performing magic" (細い棒、特に魔法をかけるときに使う)。

つまり、お湯を入れたカップに入れて一振りすれば、あら不思議、紅茶に変わる魔法の杖! というわけです。

予め茶葉を入れておく必要がありますが。(笑)

 

'Magic Wand'「魔法の杖」という表現もよく目にするでしょうね。

Wandで一番有名なのはこれかな? ハリー・ポッターが自分用のWandを買い求めます。


Harry Gets His Wand | Harry Potter and the Sorcerer's Stone

この冒頭の'Wand'の発音は「ウォンド」に近いですね。'Watch'のaと同じでイギリス式とアメリカ式で異なります。

 

もっと大きい魔法使いの杖は'Staff'と呼ばれます。

綴りは組織担当者のスタッフと同じですが、Oxford Learners Dictionaryには4番目の意味に、"​(old-fashioned or formal) a long stick used as a support when walking or climbing, as a weapon, or as a symbol of authority"「(古い用法、または格式張って)歩行や登山時の支え、武器、あるいは権威の象徴として用いられる長い棒」。

こちら、映画『ロード・オブ・ザ・リング』(Lord of the Rings)シリーズでイギリスが誇る名優、Sir Ian MacKellenが演じるガンダルフ(Gandalf the Grey)が持つStaffです。

mckellen.com

 

杖='Staff'が古い用法だとすれば、現代に普通に使われる語は'Cane'か、'(Walking) Stick'です。以下は同じくOLADから。

'Cane' "a thin stick, used to help somebody to walk" (歩く補助に使われる細い棒)

'Walking Stick' "a stick that you carry and use as a support when you are walking" (歩くときに支えとして使うために持つ棒)。「ステッキ」の語源ですね。

 

やはり、イギリス紳士はCaneを持つイメージでしょうか。

スティングの"Englishman in New York"ではコーヒーよりも紅茶を好むイギリス人(Englishman)の一つの特徴として"A walking cane here at my side. I take it everywhere I walk."と歌っています。(0:45から)


Sting - Englishman In New York (Official Music Video)

あるいは、この記事に貼った動画でのAntonの装い(シルクハット、黒燕尾服に杖)のような。

pink-supermoon.hatenablog.com

現代のロンドンでは高齢の方以外に持つのを目にすることはありませんが、それは私が住む世界が庶民だから?

 

さて、この'Cane'の一つ目の意味は、"the hard hollow stem of some plants, for example bamboo or sugar"(硬い中空の植物の茎、例えば竹やサトウキビ)です。

ん?念のために語源を見れば、ギリシャ語' kanna'(葦)がラテン語、フランス古語を経由してきたもの…

これって、'Channel'と一緒ですね!

pink-supermoon.hatenablog.com

 

さあ、収拾がつかなくなってきました。(笑)

さらに似た言葉を挙げていきます。

'Crutch'は「松葉杖」。意味は"one of two long sticks that you put under your arms to help you walk after you have injured your leg or foot"(足を怪我したときに腕の下に当てて歩くのを補助する1本、または2本の棒)。

体の股を指す'Crotch'と同じ語源で、二股になっている木製の松葉杖の形状からきています。

 

'Pole'は"a long thin straight piece of wood or metal, especially one with the end placed in the ground, used as a support"(細長い真っすぐな木製または金属製の棒、特に片側が地面に据えられて支えとなるもの)。

旗竿やテントの支柱のイメージがわかりやすいでしょう。

スキーのストック(ドイツ語)は日本でもポールと呼ばれることが多くなってきましたが、やはり片側を雪面に突いて使います。似た形状の登山、ハイキング用でよく見かけるアルミ製の杖も'Stick'と同時に'Pole'とも呼ばれます。

 

'Rod'は"a long straight piece of wood, metal or glass"(長い真っ直ぐな木製、金属製またはガラス製の棒)。2, 3番目の意味に釣り竿と罰を与えるために叩く棒が挙げられています。

ロールプレイングゲームで最初に手にする最弱の武器はこれ?

 

'Mace'は" a large decorated stick, carried as a sign of authority by an official such as a mayor"(大きな、装飾された棒、自治体の長などが公的な権威の印として持つもの)、それから、"a large heavy stick that has a head with metal points on it, used in the past as a weapon"(過去には武器として使用された、頭部に金属の先端部を持つ大きく重い棒)。

ロールプレイングゲームでより強力な武器メイスがこれ。

イギリス議会のテーブル上に黄金のMaceが置かれているのを国会中継でよく目にしますが、これは王の権威の象徴です。


運ばれる王冠や職杖、黒杖官の役割……イギリス議会の伝統的な開会式

この動画の0:24から出てくる黒い杖を持った人は黒杖官(The Usher of the Black Rod)といい女王の代理人です。下院の王からの独立性を示すため面前でドアが閉められ、黒杖で三回叩いて開けてもらいます。杖が様々な権力の象徴であることが感じられます。

ブレグジットで紛糾していたときは、Maceを巡ってこんな事件も起きました。


職杖を持ち出そうとした英下院議員 何が問題なのか?

 

'Septre'は "decorated rod carried by a king or queen at ceremonies as a symbol of their power"(王や女王が儀式で権力の象徴として持つ装飾された棒)で、「王笏」と訳されます。

もちろんエリザベス女王も戴冠式でこれを受け継がれました。

en.wikipedia.org

 

 他にも指揮棒やバトントワリング、警棒の'Baton'や、聖教者が持つ'Crosier'等があって、いかに西洋社会・文化の中で杖が多様な使われ方をしてきたかがわかります。